ブラジャーについての考察

久しぶりの更新となりました.論文のほうは,まだ執筆中で夏ぐらいまでかかりそうです.H.P休眠中にもかかわらず,お問い合せ下さった方々には心から御礼申し上げます.その中に,ブラジャーのパターン作成を依頼して下さったお客様がいらっしゃいました.

 

私は洋服のパタンナーで下着は未知の領域ですので,どうしようかな?って思ったけれども,3DCADもあるし,興味はあったのでお試しでチャレンジしてみました.それについての考察を,お客様の了解のもとここに掲載します.

 

まず当然ですが,あらためて下着=ブラジャーは全くの別物だということを思い知りました.今回ももちろん,3Dのバーチャルボディを使用して作成しましたが,通常の洋服とは違うので,どのバーチャルボディを使用し,どういうやり方で作成するのか,それを模索するところから始まりました.

 

最初,既存のバーチャルボディを変形させて作ってみましたが,これは失敗.どうしても平らなカップ形状になってしまい,思うような形にはなりませんでした.それで,サイドバーにある上から2番目のリアル人体ボディを使用して作ってみました.

 

このリアル人体ボディは,被験者にブラジャーを付けてもらった状態で,三次元人体計測器でスキャンし作成したボディです.実際はこれを更に変形させて作成しています.この被験者のカップ数はEです.確認のため,作成したパターンを紙で組み立ててみました.

左の絵は,依頼されたデザインです.F70で作成して下さいとのことでした.ブラジャーは全身を覆う洋服とは異なり,身体のごく一部分の狭い範囲をカバーするアイテムです.カップのかたちをどう作るか,それを支えるアンダーバスト部分の仕様をどうするか,その2点に尽きます.

 

カップについては,そのかたちを,お椀型にするのか,富士山型にするのか,或は,お皿型にするのかで,バストの見え方が変わり,付け心地にも差が出ると考えられます.ブラジャーは一見単純に見えますが,女性の乳房はそのかたちや大きさに個人差がある為,セオリーをよく理解しないまま作るのは難しいだろうと思われました.

上記の画像は,ブラデリスの本【ブラの力】からお借りしたものに,私が書き加えました.なぜ,既存のバーチャルボディを使うとダメだったのか.それは,CADに搭載済のボディと言うのは,工業用ボディで,少しゆとりが入っている為,画像の矢印部分つまり,バストトップとアンダーバストの境目がなだらかになっています.その為,平らなカップ形状になってしまったというわけです.

 

もちろん,リアル人体ボディ(ヌード)も,実際よりなだらかになっています.と言うのは,人体をスキャンしてバーチャルボディに変換する際,人体上の小さなデコボコは自動的に除外され,なだらかになるように形成されます.立体裁断などで型出しをする際,ボディが不必要にデコボコしているとやりにくいからです.工業用ボディは下着ではなく洋服を作る為に作られたボディだからです.

 

大学院では胸部の型どりを石膏包帯法で行っています.最もアナログな方法ですが,この方法であればバストトップとアンダーバストの境目をはっきりと模ることが出来ます.しかし,石膏包帯法はとても面倒です.時間もかかり被験者も疲弊します.だからどうしても3DCADを使いたくなるのですが,残念ながら,現状,3DCADで回り寸法を変形出来るのは,首回りとバスト,ウエスト,ヒップだけです.アンダーバストを変形することが出来れば,ブラジャーの形成にも応用出来ると思うのですが…

こちらは,ワコールのウンナナクールのブラジャーです.(画像お借りしてます)ご覧のとおりカップは,ほぼ平らですのでお皿型のブラジャーになります.このお皿型,私も持っているのですが,胸が小さめの人にはおススメです.とてもきれいに谷間ができるので,パットを入れて上げ底するより,断然効果があると思いました.C寄りのBくらいまでの人におススメです.ですが,やはり胸が大きい人は,カップがあった方が収まりがいいかと思います.

 

私が初めてこのブラジャーに出会ったとき,こんなに平らなカップ形状でも谷間を出すことができることに正直驚きました.心情としては,胸が小さい人は大きく見せたいし,反対に胸が大きい人は小さく見せたいと思うのですが,大きい人のブラジャーはどうしても大きすぎるがゆえに,おばさんくさくて可愛くないと思ってしまいます.でも,カップ形状の作り方しだいで見せ方を変えることができる.ブラジャーも奥が深いです.このウンナナクールは逆転の発想でほんとに驚きました.